集患に広告は欠かせませんが、医療機関が行う広告活動は、医療広告と呼ばれ医療法・医療広告ガイドライン(以下、医療広告ガイドラインで統一)で厳格に規制されています。違反をするとペナルティの対象となるため、病院・クリニック・歯科医院は、きちんとこのルールに対応する必要があります。
この記事では、医療広告ガイドラインに違反しないためには何に気を付けたらよいか、一般社団法人薬機法医療法規格協会の認定資格 YMAA(薬機法医療法広告遵守個人認証) を保有する立場から解説します。
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医療広告ガイドラインについて
どこまで広告・表現することが許されるのか、その根拠や指針は下記の6つから確認することができます。
- 医療法(医療機関の名称、医業・歯科医業又は助産師の業務等の広告、開設取り消し・罰則等)
- 医療法施行令(広告をすることができる診療科名)
- 医療法施行規則(広告禁止事項、限定解除、診療科名の名称)
- 医療広告ガイドライン(医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針)
- 医療広告ガイドラインに関するQ&A
- ウェブサイトの事例解説書
免責:改正・改訂については、厚生労働省のウェブサイトにて可能な限りチェックに努めますが、今後この記事に古い情報や誤りが含まれる可能性があります。この記事の内容によって生じた損害等について、一切の責任を負いかねますのでご了承ください。また、この記事では、難しい用語や表現を分かりやすく言い換えている箇所があります。
◎厚生労働省サイト内「医療法における病院等の広告規制について」を見る
広告禁止事項と禁止表現の具体例
集患を目的とする情報発信は、ほぼ広告と判断されるのが現状です。以下の広告禁止事項に該当する内容は広告することができません。
- 虚偽広告
- 比較優良広告
- 誇大広告
- 公序良俗に反する広告
- 広告可能事項以外の広告
- 患者等の主観に基づく、治療や効果の体験談
- 患者等に誤認を与える術前・術後の写真
- その他(品位を損ねる内容の広告)
具体例として以下のような表現が禁止されています。
厚生労働省認定○○専門医
専門医の資格は各学会が認定するものであり、厚生労働省が認定する資格ではないため、虚偽広告にあたります。
○%の満足度/手術の成功率は○%
データの根拠が無いものは虚偽広告にあたります。出典、調査の実施主体、調査の範囲、実施時期等の併記が必要です。
最新の治療法/最新の医療機器
常識の範囲であれば必ずしも禁止される表現ではありませんが、裏付けとなる根拠・客観的な実証が必要です。また、より新しい治療法や医療機器が定着している場合や、十数年前経過し「最新」との表現が不適切な場合は、虚偽・誇大広告にあたります。
最高の医療の提供を約束/県内一の医師数を誇ります
最上級の比較表現(最高、最上、最良、No.1、日本一など)は比較優良広告にあたります。
最先端の医療/最適の医療
医療広告ガイドラインに関するQ&Aにて、誇大広告にあたるとされています。
医師数○名(○年○月現在)
現在の人数と大きく異なる場合は、誇大広告にあたります。
○○センター/○○病院○○センター
医療機関の名称として、または医療機関の名称と併せて掲載される「○○センター」は、誇大広告にあたります。
痛くない治療/無痛
科学的根拠がないため、虚偽・誇大広告にあたります。(ただし、無痛分娩は除く)
比較的安全な手術です
何と比較して安全であるか不明なため、誇大広告にあたります。
医療の安全を保障/万全の安全管理体制
客観的な事実として評価ができないため、誇大広告にあたります。
知事の許可を取得した病院です
知事に限らず、「許可」を必要以上に強調することは、誇大広告にあたります。
芸能人の〇〇さんも当院で治療を受けています
著名人との関係の強調は、不当な誘引とみなされ、比較優良広告にあたります。
ビフォーアフター/加工・修正した術前術後の写真等/治療の効果・有効性を強調するもの
効果があるかのように見せる加工・修正した術前術後の写真等は、虚偽広告にあたります。また、撮影条件や被写体の状態を変えるなどして撮影した術前術後の写真等は、誇大広告にあたります。
病人が回復して元気になる姿のイラスト
回復を保障すると誤認を与えるおそれがあるため、誇大広告にあたります。
都合のいいクチコミだけを掲載
虚偽・誇大広告にあたります。また、患者の主観に基づく治療や効果の体験談は広告禁止です。
今なら〇%OFF/無料キャンペーン/来院プレゼント
費用や医療とは直接関係のない情報を必要以上に強調した表現は、品位を損ねる内容の広告にあたります。
この他にも意図せず比較優良広告や誇大広告になってしまっているケースもあるため注意は必要です。
なお、上記具体例では医療分野に関係なく、どの分野においても常識的にあり得ない広告表現例(絶対〇〇、必ず〇〇、公序良俗に反する内容など)は省いています。
広告可能事項の「限定解除」とは
限定解除とは、患者が自ら情報を入手する際は、適切な情報が円滑に提供される必要があるとの考え方から、以下の4つの要件を満たせば医療広告ガイドラインによる制限が解除されることを指します。
- 1. 患者等が自ら求めた情報を表示するホームページ等であること
- 2. 問い合わせ先を記載・明示していること
- 3. 自由診療の治療内容や費用等について情報を表示していること
- 4. 自由診療のリスクや副作用等について情報を表示していること
要件1のホームページ等には、患者自らがダウンロードするアプリ、患者自らが配布を求めたメールマガジンやパンフレットも含まれます。保険診療のみ取り扱う医療機関であれば、要件1と2を満たせば問題なく限定解除となります。
なお、そもそも広告禁止事項に抵触しないことが前提となります。
限定解除の例として、以下のような表現がホームページ等で広告可能になります。
専門外来/〇〇外来
診療科名と誤認を与えるため広告禁止ですが、限定解除要件を満たせばホームページ等で広告可能です。
認定医/指導医
誇大広告となるため広告禁止ですが、限定解除要件を満たせばホームページ等で広告可能です。
産業医
本来は広告禁止ですが、限定解除要件を満たせばホームページ等で広告可能です。
医師個人の手術件数
本来は広告禁止ですが、限定解除要件を満たせばホームページ等で広告可能です。ただし、裏付けとなる根拠・客観的な実証が必要です。
治療効果に関する内容(ビフォーアフター含む)
本来は広告禁止ですが、限定解除要件を満たせばホームページ等で広告可能です。ただし、裏付けとなる根拠・客観的な実証が必要です。また、症例ごとに治療内容、治療期間と回数、標準的な費用、リスクと副作用の記載が必要です。
なお、術前術後の写真等については誤認を与えないため、撮影条件や被写体の状態を変えるなどして撮影を行わないことが求められます。
アンチエイジング/審美治療
本来は広告禁止ですが、限定解除要件を満たせばホームページ等で広告可能です。ただし、保健所によっては見解が異なる場合があります。
補足1:医療広告ガイドラインの対象媒体
医療広告は、1.患者の受診等を誘引する意図があること(誘引性)、2.病院や診療所などの名称が特定可能であること(特定性)、この2つの要件を満たすことで広告と定義され、規制の対象となります。
医療広告に該当する媒体の具体例
集患を目的とする情報発信は、ほぼ広告と判断されるのが現状です。具体的には以下の媒体が対象になります。
- ホームページ
- 自らが開設したSNS、ブログ
- インターネット広告(リスティング、バナー、オンライン動画)
- メールマガジン
- チラシ、パンフレット、ハガキやFAXによるダイレクトメールなど
- ポスター、看板などの屋外広告
- 新聞、雑誌、テレビCMなどのマスメディア広告
- 不特定多数への説明会、相談会などで使用する資料など
医療広告とは見なされないものの具体例
一方、以下のものについては通常、医療広告とは見なされません。
- 学術論文、学術発表など(ただし、発表を装い患者などを誘引する場合は除く)
- 新聞や雑誌などの記事(ただし、医療機関の名称、連絡先などが特定できる記事風広告は除く)
- 個人の体験談、手記など(ただし、医療機関からの依頼、謝礼の授与、関係者による場合は除く)
- 院内掲示、院内で配布するパンフレットなど
- 職員募集の広告
補足2:広告可能事項とは
医療という専門性の高い知識を持たない一般人を保護する観点から、下記にある広告可能事項以外は原則として広告が禁止されています。
- 医師または歯科医師であること
- 診療科名(政令に定められた診療科名、厚生労働大臣の許可を得た診療科名)
- 病院・診療所の名称、電話番号、所在地、管理者の氏名
- 診療日、診療時間、予約による診療の実施の有無
- 法令の規定に基づき一定の医療を担うものとして指定を受けていること(例:労災指定病院、自立支援医療機関など)
- 医師少数区域経験認定医師であること
- 地域医療連携推進法人の参加病院・診療所であること
- 病院・診療所の施設や設備、入院設備の有無、病床・病室の数、医師や従業員の数、人員配置に関する情報
- 医療従事者の氏名、年齢、性別、役職、略歴、厚生労働大臣が定めた医師等の専門性に関する資格名
- 医療相談、医療安全、個人情報の適正な取扱いを確保するための措置、休日・夜間診療の実施、電子カルテ導入など、その他管理又は運営に関する情報
- 紹介可能な他の医療機関・保健医療サービスなどの名称、医療機器の共同利用に関する情報、他の医療機関・保健医療サービスなどとの連携状況
- ウェブサイトのURL、メールアドレス、入院診療計画書、退院療養計画書、診療録などの情報提供に関すること
- 病院・診療所が提供する医療に関する情報(例:患者等にも分かりやすい表現や説明、成功率や治療率などの治療効果に触れない治療方針、自由診療は保険適用外であることと標準的な費用の併記、往診や在宅医療の実施など)
- 平均的な入院日数、外来患者数、入院患者数、手術件数、分娩件数、セカンドオピニオンの実績など
- その他、厚生労働省が定める事項(例:健康診断、予防接種の実施、患者の受診の便宜を図るためのサービスなど)
ご依頼時によくある質問
Q1. 医療広告ガイドラインに違反していた場合はどうなりますか?
違反発覚から1か月以内に適切な改善・修正を行えば問題ありません。しかし、改善・修正の内容が適切でなかったり、違反状態を放置した場合は、自治体から行政指導が行われ、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が課せられる可能性があります。
Q2. 他の病院やクリニックもやっている内容であれば問題ないのではありませんか?
医療広告ガイドラインの違反は、一般ユーザーからの通報や厚生労働省から委託されているネットパトロール事業者の調査により発覚します。そのため、同じ違反をしていても指導を受けているところと受けていないところが存在します。しかし、「他もやっているから」「知らなかったから」で済まされることはありません。違反が指導されれば、適切な改善・修正を行う必要があります。
Q3. 医療広告ガイドラインに違反しないための事前対策はありますか?
当事務所では、ホームページの公開前やチラシ等の印刷前に、気になる点があれば所管の保健所に必ず確認し、違反を未然に防ぐよう努めています。
Q4. 医療広告で他の医療機関との差別化はできますか?
もちろん可能です。価格や性能、サービスによる差別化はできませんが、ターゲット、理念、立地、医師の人柄、キャリア等から強みを見つけ、ビジュアルを整え、一貫したデザインで訴求します。
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